動静脈奇形はどんな病気ですか?
動静脈奇形は、先天的に動脈と静脈との間に異常なつながりができてしまう病気です。圧力の高い動脈が静脈へと近道を通って、流れていきます。それを動静脈短絡(シャント)といいます。そうすると、流れ込んだ静脈の圧力が上がり、血管が拡張して異常な血管の塊(ナイダス)を作ります。病気は皮膚、軟部組織、骨、脳脊髄など全身に起こります。
動静脈奇形は進行の具合(病期)が「ショービンガー(Schöbinger)分類」に定義されています。流れの少ない初期の頃は発赤、熱感のみですが(Ⅰ期:静止期)、徐々に流れが増えるにつれて、拍動や膨らみが出現してきます(Ⅱ期:拡張期)。さらに悪化すると、色が悪くなり、痛みや皮膚の潰瘍や壊死などを起こします(Ⅲ期:破壊期)。進行例(Ⅳ期:代償不全期)では大量出血や重症感染、心不全に至る恐れがあります。また病変の場所によって様々な機能の障害や、後遺症を残す場合があり、注意が必要です。
Schöbinger(ショービンガー)
分類
病期(ステージ)
Ⅰ期:静止期 | 発赤、熱感(皮膚温上昇) |
---|---|
Ⅱ期:拡張期 | 拍動性膨張・膨隆 |
Ⅲ期:破壊期 | 疼痛・潰瘍・出血・感染 |
Ⅳ期:代償不全期 | 高拍出性心不全 |
どんな経過をたどりますか?
他の病気とはどうやって区別しますか?
動静脈奇形は孤発性が多いですが、遺伝性出血性末梢血管拡張症(オスラー病)といい、動静脈奇形と皮膚、粘膜、消化管から反復する出血を起こすものもあります。また毛細血管奇形と動静脈奇形が合併するパークスウェーバー症候群や、毛細血管奇形-動静脈奇形(CM-AVM)という疾患もあります。また動静脈短絡(シャント)が起こる血管性腫瘍である、乳児血管腫、先天性血管腫などは鑑別が必要なことがあります。
どんな症状が起こりますか?
顔面や頚部の場合は、整容面の問題だけでなく、起こる場所によっては病気が拡大すると、摂食、嚥下困難や、鼻血、視力障害、気道の圧迫などの重篤な症状も起こり得ます。体、四肢の場合も痛みや、筋肉の萎縮、関節、骨の異常による運動制限の可能性があります。
治療法を教えてください。
動静脈奇形に対する治療法は保存療法と血管内治療、外科的治療、薬物療法に分かれます。進行例(疼痛、出血、潰瘍など出現)では何かの治療を必要としますが、根治は困難であり、かつ治療を行っても再発しやすいと言われています。
保存療法として、弾性ストッキングや包帯による圧迫療法があります。これらはシャント流を抑える可能性がありますが、逆に疼痛が悪化することもあります。慢性的な痛みには、鎮痛剤として非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)が使われることが多いですが、高度な痛みにはより強力なオピオイド系鎮痛薬を使用することもあります。また病変に細菌感染が起こった場合は抗生剤を投与します。
血管内治療は、塞栓術、硬化療法と呼ばれ、病気の部分に直接、または経カテーテル的(大血管からカテーテル入れて、病気のところに到達させる方法)に塞栓物質を入れる治療です。
限局性の病変は外科的切除によって根治が可能ですが、広範囲のものや深い部分に浸潤しているものは、病変が主要血管や神経を巻き込んでいることが多いため、大量出血や神経損傷による機能障害のリスクが高くなります。また切除によって欠損した部分を修復するため、身体の他の部位(腹壁など)から採取した組織を移植する(植皮、皮弁再建といいます)必要があります。
薬物療法については、現時点で保険適応のあるものはありませんが、海外ではいくつかの薬剤の研究が進んでいますので、今後の研究が期待されます。
発展編
動静脈奇形の原因はわかっていますか?
動静脈奇形の細胞の一部で、KRAS遺伝子の異常があります。その異常が起こると、KRAS→RAF→MEK→ERKの反応が強く起こり(活性化)、病気を発生してしまいます。MEK阻害剤はこの反応を抑えることで、病気の細胞を抑え込み、症状を改善させる可能性が期待されています。
動静脈奇形は胎児期に血管を作る遺伝子に異常が起こることが関係していると考えられていますが、正確にはよくわかっていません。
遺伝性であるオスラー病では、約90%の症例にACVRL1(ALK-1)遺伝子またはENG(エンドグリン)遺伝子のヘテロ接合変異(機能喪失型変異)によって起こるとされています。毛細血管奇形-動静脈奇形(CM-AVM)ではRASA-1遺伝子、PTEN過誤腫症候群はPTEN遺伝子が関連しています。
一方で、通常の動静脈奇形は散発性といい、遺伝するものではありませんが、病変部位を一部採取すると、KRAS遺伝子、BRAF遺伝子、およびMAP2K1遺伝子(MEK1をコード)の体細胞変異(バリアント)の活性化が検出されることが報告されています。体細胞変異とは、その部分の中でわずか数%から数十%など、一部の細胞のみが遺伝子異常を起こし、残りの細胞は異常が無いもののの、細胞の形態が異常となっています。家族内で遺伝する病気ではありませんが、重要な遺伝子の異常が病気と密接に関わっているのです。
これらの遺伝子は、RAS–MAPKシグナル伝達経路に関与しています。そのシグナルが正常に進むことで正常な血管やリンパ管が発生しますが、どこかに異常があると異常な血管やリンパ管が発生してしまうのです。その異常を抑えることによって、治療効果を発揮する薬剤を「分子標的治療薬」といい、治療薬の候補となるのではないかと考えられていますが、まだ実用化はされていません。
オスラー病ってどんな病気ですか?
オスラー病とは、遺伝性出血性末梢血管拡張症 (Hereditary hemorrhagic telangiectasia: HHT)あるいは、Osler-Weber-Rendu病と呼ばれる病気です。皮膚・粘膜・消化管の毛細血管拡張病変からの反復する出血、多臓器(脳・脊髄・肺・肝臓)の動静脈奇形、常染色体優性遺伝などを特徴とする多臓器疾患で、男女差はなく、5,000-10,000人に1人の発生で、国内に約15,000人の患者さんがいます。遺伝性(常染色体顕性(優性)遺伝形式、例えば親が病気であった場合、子が病気になる確率は50%)とされています。
繰り返す鼻血が最初の症状となることが多く、年齢が進むごとに頻度が高くなってきます。その他、舌や唇、口腔粘膜、皮膚などの毛細血管が拡張したり、吐血や下血などが起こり、失血のため、鉄欠乏性貧血となることもあります。また脳や脊髄、肺、肝臓など内臓に動静脈奇形が発生します。時に脳膿瘍や敗血症、肝性脳症を起こし、致命的となることもあります。
全身の臓器に病変が起こる可能性があるため、超音波、CT、MRI、消化管内視鏡検査などを用いた全身検索が必要です。症状と家族歴によって診断する有名な「診断基準」があります。診断されるきっかけは、鼻血を繰り返したり、脳出血の時に診断されたり、もともと家族歴があった場合に診断されます。見つかった場合は、無症状であっても定期的に検査でフォローした方がいいでしょう。発症前でも遺伝子検査(保険適応)を行えば、診断が可能ですが、遺伝カウンセラーの面談を受けるなど、よく理解した上で受けるようにしましょう。
根治的な治療法は無く、症状に応じた治療になります。鼻出血に対し圧迫や凝固療法、粘膜焼灼術を行います。内臓動静脈奇形についてはそれぞれの臓器に応じ、塞栓術や手術などを行います。最近は、様々な新規治療薬が試されていますが、まだ症例報告程度でまとまった研究はありません。
ベバシズマブ(抗VEGF抗体)、パゾパニブ(マルチチロシンキナーゼ阻害剤)、ニンテダニブ(PDGFR,FGFR,VEGFR阻害剤)、スニチニブなどの抗血管新生薬や、タクロリムス(免疫抑制剤、ALK1シグナル伝達の活性化因子としてハイスループットスクリーニングを通じて特定)やサリドマイドも注目され、研究がなされています。
オスラー病(HHT)に対する新規治療薬の報告のまとめ(MEK阻害剤、サリドマイドは除く)
治療薬 | 症例数(HHT病型) | 性別/年齢 | 症状、治療適応 | 治療 | 効果 | 報告年など |
---|---|---|---|---|---|---|
タクロリムス | 1(HHT2) | 男/51歳 | 鼻出血、消化管出血 | 投与量不明 | 鼻出血の改善 | Pilm Circ2019 |
パゾパニブ | 1(HHT2) | 男/61歳 | 鼻出血、貧血 | 50mg/日→100mg | 鼻出血の改善 | Laryngoscope 2018 |
7(3HHT1、3HHT2、1JP/HHT) | 鼻出血、貧血 | 50mg/日(12週間) | 鼻出血の期間減少、Hb上昇、SF-36上昇 | Angiogegensis 2019 | ||
ニンテダニブ | 1(HHT2) | 男/70歳 | 鼻出血、毛細血管拡張、肺線維症 | 300mg/日 | 鼻出血、血管拡張の改善 | BMJ Case Rep 2017 |
スニチニブ | 1 | 男/68歳 | 鼻出血、癌、多発転移 | 37.5mg/日 | 鼻出血、血管拡張の改善 | Ann Hematol. 2016 |
ブパリリシブ | 1(HHT2) | 女/49歳 | 鼻出血、癌 | 100mg/日 | 鼻出血の改善 | Ann Hematol. 2016 |
(文献を参考に改変しまとめた)
関連情報
- 解説動画(YouTube)
「オスラー病の概要 ver 1」日本HHT研究会(HHTJAPAN)の専門医、
公受伸之先生作成(NPO日本オスラー病患者会)
動静脈奇形に対する
薬物療法の研究状況を教えてください。
残念ながら、現時点では動静脈奇形に直接効果があることが実証されている薬剤はありません。シロリムスも投与されている例がありますが、残念ながら効果は実証されていません。最近、従来の治療法では改善が望めない症例に対し、以下のような新しい薬物療法が盛んに試されています。
- MEK阻害剤(トラメチニブ、セルメチニブなど)
- サリドマイド
今後、さらに研究が進んだ時に、HP上で情報をお伝えします。